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しかし久世の方は違っていた。
一目で惹かれた生田と数時間のうちに三度も遭遇し、勇気を出して誘ったお茶も快く快諾してくれたばかりか、別れ際に再会の約束までしてくれたのだ。
口約束だけならば社交辞令だと終わりにしていたことが、わざわざ本を貸してくれたのだ。そこまで自分に興味を抱いてくれたのかと久世は感激していた。
久世は自宅へ帰ってからも、何日経っても生田のことが頭から離れなかった。
無造作にセットされた濃いブラウンの髪が添える、透明感のあるあの愛らしい笑顔。陽の光を浴びた水滴のようにキラキラと輝いていた仕草や表情。何を話しても興味を惹かれたといった顔つきで、退屈そうな素振りは一切見せずに会話を拾って盛り上げようとする、その優しさ。
そんな生田の姿が頭の中に浮かんで離れず、スマホを開けば登録しただけの生田の連絡先ばかりを見てしまう。何度も文章を練り上げては、送信ボタンを押すこともできずに消去する。
久世は生田に再会するまでにその小説を読まねばと、そのことだけは忘れず、それ以外は何も手につかなかった。
何をやっても生田のことを考えてしまう自分に疲れ果てた久世は、借りた小説を5日で読み終えると、その足で新幹線に飛び乗った。
名刺から、職場はわかっていたため、とりあえずとその住所へ向かってみた。
着いたのはちょうどお昼頃で、昼食をとるために生田は外へ出るかもしれないと考えた。
とりあえず久世は道端でうろついていても仕方がないと思い、生田の職場近くのコンビニへと入って飲み物でも買うことにした。
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