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勢いでここまで来てしまったが、これからどうすればいいのかは全く考えていなかった。
本当に生田が外へ出てきたとしてもどうするのか。声をかけるのか。いきなりのことで驚くだろう。不審に思われないだろうか。
考えながらドリンク売り場の冷蔵庫の前で商品を眺めていると、突然声をかけられた。
「あれ? 久世さんですか?」
生田だった。
いきなり本人に声をかけられた久世は、何度も繰り返し考えた、生田と再会した時のシュミレーションが全て吹き飛び、頭の中が真っ白になった。
「どうしたんですか? ここ、僕の職場のすぐ近くなんですよ。奇遇もここまでくると驚きますね」
何か返事をしなければ!
焦った久世はなんとか声を出した。
「本を、本を返しに……」
「えっ! そのためにわざわざ?」
生田の顔を見れずに俯いたままの久世は、その声を聞いてやはり不審に思われたと自らの言葉を悔いた。
もう終わりだ。なぜ来てしまったのだろう。来なければよかった。
順序を踏めば友人になれたかもしれないのに、こんな突飛な行動をして自分の手で壊してしまった。
わざわざ新幹線に乗って本を返しに来るなど正気の沙汰ではない。不審どころか気持ちが悪いと思われただろう。
なんてことを言ってしまったのか。いや、なんてことをしてしまったのだ!
生田が次にした反応は、久世の恐れていたものとは違う反応だった。
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