勢いは大事

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 心から可笑しい、といった声で笑い始めたのだ。 「久世さん、そんなにあの小説が面白かったのですか、それは良かった。真面目な方なんですね。東京でお待ちしていれば良いものを」  そう言って再び笑い声をあげた。 「僕はこれからお昼休憩なんです。久世さん、せっかくいらっしゃったのですから、ご一緒に食事でもいかがですか? それとももう済ませてしまいましたか?」  生田の提案に驚きつつも、久世は胸をなでおろして言った。 「いえ、まだ昼は食べていません。その、よろしいのですか?」 「ええ、コンビニで済ませようとしていましたが、ご一緒できる相手がいるならどこかで食べたいと考えていました。近くに美味しいラーメン屋があるんですよ。あ、ラーメンお好きですか?」  久世はラーメンなどほとんど口にしない食べ物だったが、生田の誘いがあまりにも嬉しくて、満面の笑みで答えた。 「大好物です」  生田は混み合ったラーメン屋の店内で、緊張しているのか、ラーメンが熱いのか、口に合わないのか、眉間に皺を寄せながらラーメンをすすっている久世を面白そうに眺めていた。  御曹司なのにラーメンが大好物とは。そういうものなのか、ただ久世の好みなのか、とにかく着ている高級そうなスーツはこの場では場違いだなと、可笑しくてたまらなかった。  最後の一滴まで丁寧にレンゲですくい取って食べ終えた久世は、生田のニヤニヤとした含みのある笑顔を見て顔を赤らめた。
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