勢いは大事

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「いや、ご評判通りでした」 「それは良かったです。混んでいるのでもう出ましょう」  二人は店を出た。 「久世さんはこれからどうなさるのですか?」  生田は店の前に置いてある灰皿の近くで煙草に火をつけた。 「えーっと、とりあえずこれはお返しします」  久世は返答に詰まったことを誤魔化すようにカバンから本を取り出して、生田に渡した。 「ありがとうございます」  生田は煙草を持っていない方の手で受け取った。  そして久世の返答を待つが、久世は渡し終えて満足したという表情で目を逸らしたまま景色を見ていた。  生田はその様子を見て、さらに笑みを大きくして言った。 「もしご予定がないようでしたら、今晩飲みに行きませんか? 明日は休日ですし、急いで帰ることはないのでしょう?」 「え、あ、はい」  久世は嬉しい提案に笑みを抑えきれないといった表情で答えた。 「では、仕事が終わったら連絡いたします。それまでお待ちいただけますか?」 「はい、もちろんです」  そうして二人はそこで一度別れた。
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