勢いは大事

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 目を覚ましたときには昼も過ぎて日が傾き始めた頃だった。  生田は二日酔いの頭痛を抱えてバスルームへ行くと、久世がシャワーを浴びているところだった。 「あっ、ごめん!」  生田は慌ててドアを閉めた。  久世もすぐにバスルームから出てきて、身体を拭きながら謝った。 「勝手に借りて申し訳ない。その、まだ寝てたから声をかけるのは悪いと思って」 「いや、いいんだ。自分の家みたいに使ってくれと言ったのは僕だ。シャワーの音が聞こえていたのに考えなしに開けたのが悪い」  生田は友人を泊めることなど日常茶飯事なので、飲んだ翌日に寝ぼけ眼で同じ失敗を何度となく繰り返していた。自宅に泊めるほど気を使わない相手ということもあってか、これまでは互いに笑って済ましていたことなのに、なぜか今日は自分の失態を笑うことができなかった。なぜだかわからなかったが、踏み込んではいけない一線を踏み越えかけた気持ちになった。  下着姿でリビングへと戻ってきた久世は、気にしていない様子で着替え始めた。目を逸らしていた生田は、紙袋の音を聞いて視線をそちらへ向けると、服が昨日とは違うブランド物のシャツとスラックスであることに目を留めた。 「あれ? どこでそんな服……」
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