勢いは大事

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「買いに出たんだ。あ、雅紀の分も買ってみた。好みに合うかわからんが、泊めてもらったお礼として受け取ってくれたら返す手間もない」  そう言うと久世は生田にショッパーバッグを手渡した。そのブランドは、生田が奮発して買うレベルの5倍はする値段のものだった。  中身を見ると、生田の好みど真ん中のカットソーとスラックスが入っていた。 「こんな高いのもらえないって」 「好みに合わないようならこの名刺と一緒に店に持っていってくれ。差額は関係なく、好きなのと交換できるように伝えてあるから」  久世はなんでもないことのようにサラリと言った。  生田は、初対面のときからおどおどして緊張する様子を見せていた久世の別な一面を見て、御曹司である久世はやはり自分とは別世界の人間なんだと思い知らされた。  しかも、事故のようなものだったとは言え見てしまった久世の身体は、丹念に鍛え上げなければ作り出せないほどの代物で、指折りの大学の院生をしながらここまでの筋肉を維持していることは驚異的だった。  生田は一度筋トレを挫折した経験があるだけにその凄さがわかり、久世の大学も偏差値が足りないからと諦めたこともあって、久世に対する引け目と同時に劣等感をも感じてしまった。 「透は、何時の新幹線で帰るんだっけ?」  生田の突然の問いとその表情を見て、久世はすぐに悟った。 「今夜は予定があるんだ。だからもうそろそろ出ないといけない」
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