三度の奇遇

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「痛み入ります。スウェーデンでしたっけ? 何時の便なんですか?」 「10時。もうそろそろね」  絵麻は時計をチラッと見ると、財布からお札を出してテーブルに置いた。 「あ、お金なんて」  生田がかけた言葉をさえぎるようにして絵麻は別れの挨拶をした。 「早苗さんのことよろしくね。何かあったら逐一教えてよね。じゃ、生田さんまたね」  絵麻は笑顔でそう言うと、颯爽と去って行った。  絵麻がドアの向こうへ消えていくまで見届けていた生田は、こちらを向いている人物の姿を目の端に捉えた。  何気なくその人物に焦点を合わせると、一人の男性客と目が合った。  見知らぬ男性だったが、目が合った瞬間に慌てたように逸らされた。  生田はそれ以上気に留めることはなく、病院の面会時間までの暇を潰すために読書を始めた。  2時間後に生田は早苗の病室を訪れた。転院してからは三度目の面会だった。 「絵麻さんは先ほど発たれてしまいました。しばらく帰って来ないそうですよ。寂しくなりますね」  それから生田は、仕事のことや早苗の好きだった本の続刊を読んだこと、話題のニュースなどを早苗が聞いているかのように一人で喋り続けた。 「それではまた来ます。次は2ヶ月程先になりますが、それまでお元気で」  眠ったままの早苗に笑顔を向け、生田は病室を後にした。
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