2ヶ月経たずして

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 到着したホテルは、生田が久世と初めて会った、絵麻の祖父のものだというあのホテルだった。  一般人なら特別なことがない限り泊まらないであろうグレードのホテルだ。  部屋はスイートルームなのだろうか、最上階に二部屋しかないうちの一つで、走り回れそうなほどの広さのリビングの他に寝室が二部屋もある。室内はバーカウンターやら高級そうな家具やらが鎮座していて、壁一面に広がる窓からは絶景を臨むことができた。  久世は案内してくれたボーイに何事かを耳打ちすると、ジャケットを脱いでクローゼットへ片付けていた。 「届くのに時間がかかるから、待つ間にシャワーでも浴びるか? バスタブも広いからお湯をためてもいい」  久世は車に乗り込んだあたりからずっと落ち着かない様子で、今もタオルやバスローブを探し出しては生田に渡そうか、ソファに置こうかとおろおろしている。 「おいおい、僕は連れ込んだ女の子じゃないよ」  生田は久世の様子を可笑しそうに眺めながら言った。 「ああ、そうだが」  久世はおろおろとしながらも真面目に答えた。 「透が入りたいなら入ったらいい」  生田はまだニヤニヤとしながらバスルームの方を指差した。 「そうだな、お湯をためよう」  久世はいそいそとバスルームへ向かう。
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