世間は狭い

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「おい! 俊介! 起きろ!」  久世が俊介を揺さぶって起こそうとしている。 「透様、私がお運び致しますから」  運転手がおろおろとしながら割って入る。 「いいんだ。自分の足で歩かせる」  久世はそう言って、小柄とは言えない俊介の身体を軽々と持ち上げて道路に立たせると、頬をつねって耳元で大声を出した。 「起きろ!」 「あ?」  俊介の口から間の抜けた声がした。 「着いたぞ」  意識を取り戻した俊介が自力で立ったことを見届けた久世は、そのまま振り向きもせず車に乗り込んだ。 「歩ける?」  見かねた生田が脇の下に手を回し、身体を支えてあげる。 「あぁ、雅紀。え? あ、家か」  生田は俊介を支えて、部屋まで連れて行った。  5分程経った頃、今か今かと生田の戻るのを車内で待っていた久世は、とうとう我慢ができなくなって俊介の部屋へ向かった。  部屋へ入ると、玄関で倒れ込んでいる俊介と、その隣で思案している生田の姿があった。
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