世間は狭い

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「あー! クソッ!」  そう吐き捨てた久世は、生田の横を通って俊介のところへ行き、再び持ち上げてベッドへと運んだ。  それからスーツを脱がせてハンガーに掛け、シャツの皺を丁寧に伸ばした。  冷蔵庫を見てミネラルウォーターのボトルを発見したのか、それとグラスを持ってやってきて、グラスに水を半分ほど入れ、キャップは軽く緩めたまま、ボトルとグラスをサイドテーブルの上に置いた。  部屋に散乱していた荷物をテキパキと片付け、ベッドから降りてもつまずかないようにとの配慮なのか、通り道を作っていた。  生田はそれを驚いた様子で見ていた。  自分も人に細やかな対応をするようにと心がけてはいるが、こんなに細々と世話を焼くようなことはしない。  人を使うような立場であるはずの御曹司の久世が、その高い背を丸めてがっしりとした身体を機敏に動かしながら甲斐甲斐しくする姿は物珍しかった。  久世がぶつぶつと文句を言いながらシンクに溜まった食器を洗い始めた時、とうとう生田は声をかけた。 「透、そこまではやらなくてもいいと思うけど……」  集中していたのか声をかけられて身体をビクッと震わせると、みるみる顔を赤くした。 「……行こう」  そう言いながらも最後まで洗い終えた久世は、顔を真っ赤にしたまま俯いて、生田とともに部屋を後にした。
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