世間は狭い

10/10
前へ
/138ページ
次へ
 車に乗り込んだ生田は、憮然とした顔で外を眺めている久世を見て、あんなに苛々と俊介に対して怒りながらも、真逆のような行動をとって不貞腐れている久世が可笑しくも愛らしいと思い、なぜか頭を撫でてあげたくなった。 「やっぱ仲がいいってことだね」  生田がからかうようにしてそう言うと、久世は慌てたように言葉を継いだ。 「仲良くはない! 仕方がないんだ。あんなだらしのない状態が耐えられない。例え人のことでも落ち着かなくなる、ただそれだけだ。それよりも雅紀の仕事が心配だ。今からだと車を飛ばしても朝になる。身体を休めることを考えるなら、金を借りてもらって午前の新幹線で帰るのが一番だと思うが」 「ありがとう。その言葉に甘えることにするよ」  生田の笑顔を見て、久世はようやくホッとした様子を見せた。 「自宅へ」  久世がそう言うと、運転手は、かしこまりました、と言ってハンドルを切った。  生田が戸惑いの表情を浮かべたのを見て久世が言った。 「この時間じゃ空いてるホテルを探す時間がもったいない。自宅は近くだ」
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

424人が本棚に入れています
本棚に追加