落ちるのは突然のこと

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落ちるのは突然のこと

 そこは閑静な住宅街で、豪邸ばかりが立ち並ぶいかにも地価が高そうな場所にあった。塀の外から家が見えないほど敷地は広く、屋敷もかなりの大きさだった。  門をくぐってしばらく走ったあとようやく玄関の前へ到着した、と思いきや車はそこを通り過ぎて裏手の方へ向かった。 「離れに部屋がある」  久世が説明した。  生田は圧倒され、何も言えなかった。  離れの中に入ってもその驚きは収まらない。それだけでも邸宅と言えるほどの大きさなのに、物がほとんどなく、和風の外観とは裏腹にスタイリッシュで洗練された空間だった。  だだっ広いリビングの中にあるものと言えば、ローテーブルと大きなソファが二脚、バカでかいオーディオセットとバーカウンターくらいだった。壁一面が収納のようなので、その中には色々なものがあるかもしれないが、壁は真っ黒で床は大理石。殺風景ながらも洒落ている。  久世はジャケットを脱いでハンガーに掛けたあと、キョロキョロと部屋を見渡している生田のところへ行くと、脱ごうとしない生田を見かねてジャケットを脱がせた。 「凄い……」  生田が思わずそう漏らすと、久世の顔はほころんだ。
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