落ちるのは突然のこと

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 バスタオルを受け取ってシャワールームに入る。  女性用のアメニティか化粧品か、何か痕跡があるのではないかと見渡したが、こちらもほとんど物がなくスッキリと片付けられていて、人が住んでいる気配もないほどだった。  生田はシャワーを浴びたあと洗面にある戸棚を開けてみたが、申し訳程度に男性用の化粧品があるだけだった。これまた高そうだなと手に取ってみる。  その時、久世がノックをして、顔を背けながら服を差し出した。 「新品ではないが、俺のでよければ」 「ありがとう」  生田は受け取ってそれを着た。  Tシャツとスポーツ用のジャージパンツだ。サイズは少し大きいが、着れないこともない。かすかに久世の香水の香りがした。  そのとき生田は混乱した。  久世の家で久世の匂いのする衣服に包まれていることを意識した途端、なぜか急に鼓動が速くなったのだ。
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