三度の奇遇

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「面白いですよ。僕も同じく高校時代に読みかけてやめていた口です。歳を重ねると読めるようになる小説ってありますよね。この新訳シリーズは読みやすくなっているので、再挑戦しやすいと思います」 「あ、色々な装丁のものがあるのだと思っていましたが、訳が違うんですね」 「はい。この新潮文庫のものはそれまであった岩波文庫のものより読みやすくてしばらく決定版になっておりましたが、それでも今読むと読みにくい部分はあります。新訳が出てからまた読まれるようになったのではないかと思います」 「そうか、翻訳小説は出るたびに訳が変わるものなんですね。普段あまり小説は読まないものですから」  そこで二人は会話に詰まった。  数秒後、男性が気まずい空気を断ち切った。 「あの、もしお時間がありましたら、その、お茶でもいかがですか? もしよろしければもう少しお話を伺いたいと思ったもので」 「はい、構いません。ちょうど暇をつぶしていたところです。新幹線に間に合えば他に予定はありませんから」  生田が笑顔で答えると、男性は嬉しそうに笑った。 「それではこちらの病院へわざわざ通院なさっていらっしゃらるのですか?」  男性のその問いに生田は答え、カフェに着くまでの間に早苗とのことをすっかり話してしまった。
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