落ちるのは突然のこと

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 久世の手によってベッドに寝かされた生田は、そのベッドの柔らかさと肌触りのいいシーツにさらに煽り立てられた。洒落た配置の薄暗い照明も今の生田にとっては逆効果となり、そのまま久世を押し倒したい欲望に駆られて気が狂いそうだった。  なぜこんなことを久世に対して覚えるのか。  生田を案じて額に手を当てたり、水や体温計を持ってきたりと慌てている久世を、生田は目で追いながら冷静になろうと努めた。 「透、ごめん。大丈夫だから」  生田は起きあがる。 「いや、熱がある。身体が熱いぞ」 「シャワー浴びたから」 「顔も赤かった」 「それは透のせいで……」  生田が言い淀んだと同時に久世も固まった。  久世の顔は悲痛の表情と言っていいような形に歪み、視線を逸らして俯いた。 「……新幹線に間に合う時間に起こすから」  久世はそれだけ言うと寝室を出ていった。  数秒迷ったが、生田は意を決してリビングへ戻った。 「ごめん、違うんだ。透が悪いわけじゃない。僕が悪い」 
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