二つに一つ

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 東京駅へ向かう車内でも二人はほとんど口を利かなかった。  生田は車の揺れでまどろみ、久世は景色を見ていた。  駅前のロータリーで久世が封筒を渡した。 「現金で申し訳ない。チケットを買う時間がなかったものだから」 「そこまで考えなくてもいいよ。ありがとう。次に会った時に返すから」  生田は何の含みもない笑顔を向けた。  生田の笑顔を眩しそうに見た久世は、僅かに口角を上げてそれに応えた。  駅の中へと消えていく生田の姿を見守ったあと、久世は帰路についた。  久世は一睡もしていなかった。  生田の言葉の意味を考え続けて眠れなくなっていたのだ。  生田の様子はいつもとは違っていた。あんなに狼狽えている様子は見たことがない。  顔を赤らめ、落ち着きをなくして言葉を選んでいた生田を思い返すと、生田も同じように自分を思っていてくれているのでは、とそう期待してしまう自分を抑えられなかった。  自分のせいだと聞いた時はショックで自棄(やけ)になりかけたが、その後出てきたあの言葉は何だったのか、生田にそれを聞き質したい。  自分が同性愛者であることと生田を愛していることを告げてしまいたい気持ちと、告げてしまったら二度と会えなくなるかもしれないと思う気持ちが、久世の中で入り乱れた。
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