二つに一つ

7/17
前へ
/138ページ
次へ
『あ、ごめん。いいよ。えっと、今どこにいるの?』  久世が今いるコンビニの場所を説明する。 『あー、めっちゃ近いな』  生田はそこで少し笑った。 『どうしよう。多分そこから見えると思う。アパートなんだけど。どうしよう。えーっと……』 「誰かと一緒にいるのか? それなら明日改めて連絡する」 『うーん、そうだなー、そうしてもらおうか……。いや、ちょっと待って。そっちに行く』 「いや」 『待ってて』  その声で通話は切れた。  久世が帰ろうかと躊躇(ためら)っていると、すぐ後に生田の声が聞こえてきた。 「おーい、透~」  久世が声のする方へ振り向くと、片手を上げてこちらに向かって走ってくる生田の姿があった。 「ごめんごめん、来てくれてありがとう。本当に世話焼きだな」  生田はいつもの眩しいほどの笑顔を久世に向ける。 「突然来て申し訳ない。メールも電話も、その」 「ごめん、母親のことがあってバタバタしてて」  その時久世は確かに見た。  生田が走り寄ってきた時、出てきたであろう方角にあるアパートの階段を降りていく女性の姿を。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

426人が本棚に入れています
本棚に追加