二つに一つ

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 田舎と言ってもいいほどに建物も家も少なく田んぼの多いこの近辺は、道路にもコンビニの店内にも全く人気(ひとけ)がなく、駐車場にも久世が乗ってきたタクシーの一台だけだった。  それだからか歩いている人影は遠くからでも目立って見えた。  あのアパートが生田の実家であるなら、あの女性は電話の向こうで生田が話していた相手ではないだろうか。  久世の頭の中でその考えが何度も繰り返された。 「お母さんがその、少し悪いというのは……」 「うん、まあ、自宅で話そう。コンビニで酒でも買っていこう」  生田は力のない笑みを久世に向けたあと、店内へと入っていく。  久世は家へ入れてもらうことになるのだと考えて、タクシーに金を払って帰すことにした。  久世が店内へ入ると、既に二つの大きな買い物袋を抱えた生田がレジから出入り口へと向かってくるところだった。  久世はそのうちの一つを受け取って、生田の後をついていく。  二人は無言のまま生田の実家であるアパートへ向かった。
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