三度の奇遇

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 生田と男性は話しながら本屋のあったビルを出て、近くにあるカフェへと入ると席を見つけてコーヒーを注文した。 「大変だったんですね。転院なされて、その北島さんという方の容態に変化はあったのですか?」 「まだわかりません。もう一度手術をするようですから、まだこれからということなのでしょう」  男性は、久世(くぜ)(とおる)と名乗った。  与党の総裁選に出馬している久世議員の孫だそうで、現在は大学院で修士論文を執筆中らしい。  背が高くスラリとしていて、御曹司よろしく高そうなスーツを見事に着こなしている。サラサラとした黒い髪は、セットされてはいるが長い前髪が顔にかかり、俳優か芸能人かと思うような美貌を隠すようにしている。 「それで生田さんは度々こちらの病院へお見舞いに来られているのですか」 「えぇ、まだ三度目ですが。眠ったままといっても意識があるかもしれませんし、頻繁に声をかけてあげることは重要だと考えたものですから」 「大切な方なんですね」 「えぇ、いや、こんな話をしてしまってお恥ずかしい」 「こちらこそ根掘り葉掘りお伺いしてしまって申し訳ありません。お時間があれば私の話を洗いざらいお話してお返しすることもできるのですが」  生田は久世のその言葉で笑った。 「近くに住んでいればまたお会いして色々お伺いしてみたいものですが、僕が次に来るのは早くても2ヶ月先になりますから」 「残念です。いや、あの小説のお話をもっと色々伺いたいと思ったものですから」 「ああ、その話をするためにお茶をすることになったはずでしたね。まだ時間はありますから」  そう言って、生田は既に持っていた小説を取り出して、ページを開いた。
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