二つに一つ

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 生田は話しながらのろのろとした動きで立ち上がると、冷蔵庫から二本目の缶ビールを取り出した。 「会社に母親のことを伝えて、辞めてこっちへ来る話をしたんだけど、会社にはとりあえず有給と介護休暇を使って考えて欲しいって言われたから、今のところまだ退職にはなっていない」 「……そうか、大変だったんだな」 「連絡返せなくてごめん」 「いや、そんな状態で連絡なんてしてる暇はないだろう」 「……透も忙しかったのかな? 論文があるって言ってたしね」 「ああ、一ヶ月それに没頭してて、その……」  久世は俯いてボソボソと答えている。 「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」  生田は満面の笑みを向けた。 「いや、いきなり来て本当に申し訳ない。その、誰か一緒だったんだろう? 追い出してしまって、それも申し訳ない」 「え? あ、電話で何か聞こえた?」  生田は笑顔のまま答えた。 「いや……」 「隣の家の人が回覧板を届けに来たんだよ。回覧板って知ってる? 知らないだろう」  そう言うと生田は声を出して笑った。  久世は顔を上げて生田の顔を見た。
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