三度の奇遇

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 二人はそれから1時間ほどカフェで会話に花を咲かせた。  新幹線の時間だからと、生田が別れの挨拶をしようとすると、久世は車で東京駅まで送ると言った。 「ご迷惑になりますから結構ですよ」 「いえ、時間を使わせてしまったのです。送らせてください。もう少し生田さんととお話も楽しみたいものですから」  生田は、久世の意向が建前ではなく本心であることを悟り、その厚意を受けることにした。  運転手付きのクラウンの後部座席に乗り込んだ生田は、久世に話を振った。 「久世さんはなぜ病院にいらしたのですか? 久世さんもお見舞いですか?」 「ええ、父が入院中でして」 「そうでしたか」 「父は企業の重役なのですが、院を辞めて私にその企業に入れとうるさくて。私は拒否しているのですが、命が危ないからと脅すような真似を繰り返していて辟易しているんです」 「それは大変ですね。お父様のその、お身体は大丈夫なんですか? 本当に命に関わるものなんですか?」 「いえいえ。血を吐いたので胃癌かもしれないと大騒ぎをしましたが、結局ストレスによる胃潰瘍でした。そんなのを見せられて同じ仕事をしろだなんて、よく言えたものです」  久世はそう言って笑った。  生田は父親を早くに亡くしていて片親だったので、父と息子という関係は自分には未知の世界だとして言葉に詰まった。
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