来客

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 車は年季の入った黒のN-BOXだった。  当然のようにみどりが助手席に座ったのを、運転席の生田は困ったような表情で迎えた。  病院への通り道にみどりの自宅があるらしい。  車がなければどこへも行けないような生田の実家付近から、様々な商業施設が並んでいる市街地へと入っていく。  みどりは久世に気を使って話題を振った。 「私も車が欲しいんですけど、職場は近いし、街中だと不便はないから未だに持ってないんです。いつも雅紀に迎えに来てもらってて。昨夜も……」 「着いたよ」  生田がみどりの言葉にかぶせて言った。 「ありがとう。じゃ、また連絡して」  そう言ってみどりは降車するとマンションへと帰って行った。  生田は無言のまま車を発進させた。 「これ、母親の車なんだ。僕のは向こうにあるから、こっちに来た時だけ使わせてもらってる」 「軽なのに広いんだな」 「……そうだね」  そこで会話が止まると、すぐに病院が見えてきた。
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