来客

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 生田は駐車場に車を入れて、トランクから母親に渡すのであろう荷物を下ろした。 「今日はこれを渡すだけですぐに戻って来るから」 「急がなくてもいい。これ読んでるから」  久世は手に持っている小説をひらひらと動かして見せる。  生田はそれに笑顔で応えたあと、病院の入口へと消えていった。  久世は生田の姿が見えなくなってから大きなため息をついた。  みどりが現れてから久世は嫉妬に駆られ、それを表に出さないよう平静を保ち続けるために気を張り過ぎて疲れていた。  あの人が生田の彼女なのかとそう考えて、みどりのことが気になるけど見たくないという相反する感情に苛まれていた。  みどりはスタイル抜群の女優のような整った顔立ちで、服のセンスも良く、男性ならば思わず振り返ってしまうであろう美女だった。  掃除をしていて見つけた小物を手渡した時、同時に見つけた開封済みの箱が頭にチラついた。  この人と生田が、とそう考えると頭の中で次々と妄想が進んで止まらなかった。  生田があの肩を抱き、髪に触れ、腰に手を回し、唇に近づくのかと思うと壁を殴りたくなった。
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