来客

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 生田は、久世が青森へと来てくれたことに複雑な心境を抱いていた。  こんなにも心配してくれているのかと久世の友情を喜びながらも、青森での自分を知られたくなかったからだ。  生田は地元へ帰ってきてから、しばらくは母の付き添いや入院の手続きやらで慌ただしくしていた。  一週間ほどたって落ち着いてきたときに、たまたま寄った病院の近くのスーパーでみどりと再会した。  みどりは高校時代の彼女だった。  彼女と言っても数週間過ごした程度の仲だったが、数年ぶりの再会を喜んだ二人はそのまま飲みに行くことにした。  みどりは彼氏と別れたばかりで現在はフリーだという。元カノという気安さと酔った勢いとで二人は一夜を共にした。  それからみどりは二日と空けずに生田のところへ通うようになった。とは言っても、迎えに行くのは生田である。  帰ってきた理由を説明するのが億劫だった生田は、街で偶然出会うに任せるだけで自分から友人に声をかけることはせず、病院と実家の行き来だけで蓄積していたストレスをみどりを相手に発散していたのだった。  みどりも生田と同じ価値観の持ち主で、身体の関係だけで束縛をするような相手ではなかったこともあり、ただ軽い会話をして一緒に寝る、その気楽さが今の生田にはちょうどよかった。  そのみどりを久世には会わせたくなかった。
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