452人が本棚に入れています
本棚に追加
母親の病気のために実家へ戻ってきていながら、女性と半同棲のような真似をしていることを知られたくなかった。しかも真っ当な恋愛相手ではない。
久世は早苗のことを知っているから、そんな不道徳な面を知られたくないという気持ちもあったが、それ以上に久世に対して女性の影を見せたくなかった。
久世はみどりのことをどう思ったのだろう。早苗のことを思いながらみどりと関係を持っている自分はどう映ったのだろう。
生田はその答えを聞くのが怖かった。
最初は生田も慌ただしくしていて連絡がないことにすら気が付かなかったが、落ち着いたときに気がつくと、連絡がなかったこと自体に安堵していた。久世のことだから母親のことを知らせたら駆けつけてくれるのではないかと感じていたからだ。
実際に駆けつけてくれたことで久世に対する尊敬の念は強くなったが、同時にその久世が案じてくれている自分自身の愚かさに嫌気が差していた。
「……何もないところだろ? 観光するところなんてないし、まともなレストランどころか飲む場所もろくなもんじゃない」
「いや、風情がある」
生田は吹き出した。
「表現がいいな」
「これからどうする? 夕食には早いし、ここらへんで買い物以外に行くところといえば……ラウンドワンかイオンか」
「………ラウンドワン?」
その時、生田のスマホが振動した。
なぜか二人ともみどりが掛けてきたのではと思った。
最初のコメントを投稿しよう!