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生田は車を路肩に停めて電話に出る。
「どうした?……うん、さっき行ってきた。……そう、一昨日話した新しい薬が効いてるみたいで今日は元気だったよ。……うん、良かった。……え? いや毎日行ってるよ。当たり前だよ。……は? 仕事? 仕事は有給で……え? いつ? ……明日? ちょっ…………えっ…………いつまで?……一週間? …………あー、……そう。ありがとう。……うん、じゃあそうする。……わかった。じゃあ……」
生田は通話を切って、無言のまま車を発進させた。
「兄だった」
生田が口を開いた。
「……明日来るらしい」
横目で久世の反応を伺うが、久世は前を向いたまま微動だにしない。
「一週間くらい有給をとったからこっちに来ることにしたらしい。それで、その間兄が母の側にいるから一旦帰ったら?って」
それを聞いて、久世は小さく口をすぼめた。
「明日兄が帰って来たら、その、透はここに居づらいだろう? だから、一緒に帰ろうかと……」
「お兄さんといなくていいのか?」
「毎日電話してるからなー、特に改まって話すこともないし」
ここでようやく久世は生田の方を向いた。
「俺が来たせいか」
「いや、違うって。兄は僕が仕事を休んでいることを気にしていたから。僕に母を任せきりなのも気が引けたみたいで。透は関係ない」
その言葉を聞いて久世は力のない笑みを浮かべた。
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