来客

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 宏紀はキョロキョロと部屋の中を見渡しながら、荷物を下ろした。 「あ、これ土産。久世さんも良かったらどうぞ」  宏紀は紙袋から土産の菓子折りを取り出してこたつの上に置いた。 「……ちんすこう?」  久世がボソリと呟いたのを見て、生田は一人で小さく吹き出した。  生田が隣の部屋で荷物をまとめている間、久世と宏紀はこたつを囲んでちんすこうを食べていた。 「わざわざ来てくださってありがとうございます」  宏紀が朗らかに話を振った。 「いえ。来ただけで何もしていません。ただ邪魔しに来ただけでした」 「え? 何もないのに来るのが一番嬉しいことじゃないですか。必要があって来るのは用事でしょう? 何をするのでもないのにただ来るってのが本物の友情ですよ。雅紀はあまり他人に深入りしないタイプだと思っていましたけど、久世さんのような友達がいたんですね。兄としてとても嬉しいです」  宏紀は生田に良く似た笑顔でそう言うと、飲み物を取りにキッチンへと向かった。  久世はその宏紀の行動をしばらく目で追ったあと視線を逸らし、今言われた言葉を噛み締めた。
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