勢いは大事

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勢いは大事

 生田は初対面の相手とすぐに親しくなる(すべ)に長けていた。人好きのする端正な顔立ちで向ける屈託のない笑顔と、相手の好意を掻き立てる話術とで、会って数時間のうちに相手の心をつかんでしまう。  久世も例外ではなく、議員の孫として腫れ物のように扱われ、金持ちの通う学校で厳しく育てられてきた久世にとって、初対面から親しみを感じることのできた相手は新鮮で、会話も弾んで気が合う生田に、すぐに好意を抱いたのだった。  生田は相手が好意を向けようが敵意を向けようが他人の気持ちに興味はなく、ただその場が楽しければ良いという考えの持ち主で、あまり人と深く関わろうとはしなかった。  相手が求めているであろうことを安易に口にしたり、先の希望をチラつかせるような約束をしてしまうこともよくあった。  ほとんどが社交辞令止まりであったが、たまに本気に受け取った相手がいたとしても喜んで相手をするような、去る者は追わず来るものは拒まない、そんな性格を持っていた。  このとき交わした約束も深く考えたものではなく、いつも通り適当な約束の一つに過ぎなかった。  本気に取られたところで見舞いのついでに1時間程度お茶をすればいいだけの話だ。久世に関してはそう考えただけで、新幹線に乗り込んだときには既に生田の頭から消えていた。
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