三度の奇遇

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三度の奇遇

 生田(いくた)雅紀(まさき)は、後から考えて、自分は何て最低なことをしてしまったのかと悔やんだ。  しかし時は既に遅かった。  23年の人生で、初めて他人の気を惹きたいと願った相手は病に倒れ伏してしまった。意識がないまま目が覚めず、それがなぜなのか医者にもわからなかった。  彼女が目覚めたら謝罪したい。  そして叶うことならもう一度最初からやり直して、彼女の心を掴みたい。  彼女を騙していたことを心から悔いていた生田は、彼女が目覚めるのを待ち続けていた。  生田は休日を使って東京へ来ていた。意識のないまま入院している北島(きたじま)早苗(さなえ)が、東京の病院へ転院して3ヶ月経った日のことだった。 「絵麻さん、今日はありがとうございました」 「いいよ。私も来る予定だったし、一緒に来たほうが楽しいじゃん」  早苗と共通の友人である絵麻が、生田の対面に座っている。 「絵麻さんがこのホテルの部屋を取ってくださったお陰で日帰りにならずに済みました。新幹線で往復するのは疲れますからね。本当にありがとうございました」 「気にしないで。祖父のホテルだから無料(ただ)みたいなものだし」  二人は朝食後にホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいるところだった。 「私もフライト時間に合わせて前泊しなきゃならなかったし、日程が一緒だったわけだからホテルくらい用意してあげるよ」
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