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朝になりかけていた。疾走の音を聞きつけて幕舎を出ると、伝令兵はラフリンの姿に安堵の表情を見せ、駆け寄った。
「タンチョウ族がっ……再び天天への侵攻を開始しました!」
「黄李将軍を起こしに行け。俺は直ちに都南へ向かう」
「はっ!」
赤城を振り返る。半月の辛抱だ。半月経てば、またここに戻って来られる。
「我が隊は座貫の誇りになり得ようとしている! 長年座貫を苦しめ、略奪の限りを尽くしてきたタンチョウ族をっ、今こそ討ち滅ぼすのだっ」
叩き起こした兵を並ばせ、ラフリンは声高に叫んだ。一睡もしていない割には、まずまずの声量だ。
「進めっ! 我が領土都南へ!」
長剣を進行方向へ向け、演習場を駆け抜ける。ラフリンの麾下三千騎は、骨身を惜しまずその後を追った。熱気と興奮を背に感じながら、ラフリンは空を仰いだ。
都南に入った。
「ラフリン将軍っ! 敵が潜んでいるかもしれません!」
「かまわん! このまま街を駆け抜けろ!」
「ラフリン将軍っ……敵が、一騎も見当たらないと言うのはっ……」
兵士の不安を無視して、ラフリンは先を急いだ。彼らは気付いていない。タンチョウ族は、いる。さっきからずっと、こちらの動向を観察している。
陽が陰った。
火矢が、ラフリン隊に降り注いだ。馬が暴れ落馬する者、まともに火矢を身体に受ける者で隊列が乱れる。
「怯むなっ! 敵の多くは天天にある! ここにいるのは我々の敵ではない!」
言いながら、後に続く者が明らかに失速するのが分かった。都南の街が火矢によって焼き尽くされようとしていた。夏の砂漠を遥に上回る熱さに、ラフリンの眉間にもシワが寄る。
「引き返しましょう!」
「街は燃えている! このまま前進し、天天を目指す!」
そう言って進行方向にラフリンが見たのは、ラフリン隊を上回る数の、タンチョウ族の騎馬隊だった。
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