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調練を終えて赤城に戻ると、通路を歩くソピンを見つけた。ソピンの手には手綱があり、その先には金髪の男が繋がれていた。
金髪の男は天井を仰ぎ、子供のように声を上げて泣いていた。喉が潰れてしまうのではと心配になる程で、ラフリンは物珍しいその男から目が離せなかった。
「うわぁああん」
ラフリンは二人の元へ歩んだ。
「お願いっ! これを取って!」
金髪の男がラフリンに訴える。
「僕っ……何も悪いことしてないのにっ……こんなの変だよっ」
向けられた青色の瞳の美しさに、思わず息を飲んだ。
「そのような貧相な身体では、兵役など無理だろう」
ラフリンが言うと、男の瞳からワッと涙が溢れた。
「なんでそんなことっ! お前に言われなきゃいけないんだよっ!」
「貴様っ! ラフリン殿に無礼な!」
ソピンが金髪の頭をペシっと叩いた。柔らかそうな髪がふわりと揺れる。
「うるさいっ! ひどいよっ……ひどいようっ! なんで僕がっ……ううっ」
感情の出し方も、思考回路も、分別のつく成人男性とは思えなかった。
「ラフリン殿……こんな調子で、比玄様の元へお連れしても大丈夫でしょうか」
「ふん、騒いだらその場で殺されるだけだ」
金髪の男は分かりやすく怯えた。
「こ、殺される……?」
いやだ。そんなのいやだ。と金髪の男は繰り返しながら首を横に振った。なんだ、この甘ったれは。ラフリンは奇妙なものを見ているような心地になった。
「尻の準備は済ませたのか?」
「いえ、これからです」
「ならば、俺がやろう」
ラフリンはさりげなくソピンの手から手綱を取り上げた。
「お前、名は」
「い、インフィン」
「行くぞ、インフィン」
ラフリンは言って、手綱をグッと引いた。
比玄の暮らす棟は庭に囲まれ、その庭に建てられた小さな離れが慰み役の準備部屋だ。部屋にはたっぷりと湯を張った陶器の浴槽と、藁や毛皮を重ねて作った寝台がある。浴槽の側には頭部ほどの壺が並んでいる。
部屋の前で硬直したインフィンをラフリンは容赦無く引っ張った。インフィンの軽い体はコロンと赤石の床を転がって、浴槽の前で止まった。
「慰み部屋に寄ったのなら、自分がこれからどうなるか分かっているだろう」
「いやだ……いやだ」
ラフリンがインフィンの服に手を伸ばすと、インンフィンは「触るなっ!」と言って手を払った。だがインフィンにはその抵抗を貫く度胸はなく、次に伸ばした手には抵抗しなかった。
つまらぬ男だ。とラフリンは思った。気高さも、強さもない。哀れむ余地はない。
「し、死んだ方がよっぽどマシだ!」
「ならば死ぬか?」
腰に下げた鞘に触れると、インフィンは「ひぃっ」と想像通りの反応を見せた。
「ふん、情けない男だ」
蝋燭の灯りしかない薄灯りの部屋でも、インフィンの顔が赤くなるのが分かった。
「戦地に出たところで、貴様のような腰抜けは敵に背を向け逃げ出すのがオチ。大人しく王の慰み者になるんだな」
服を脱がせる。貧相な裸体が現れた。
「や、やだ……」
「これも立派な兵役だ」
ラフリンはそう言って、色素の薄い、小ぶりな胸の突起をツンと触った。インフィンの華奢な身体がビクンと跳ねる。
「比玄様はここがお好きだ。唇で引きちぎるように吸い上げ、何度も舌で弄ぶ。無駄に音をたて、押し込み、引っ張っり、時にはつねる……延々とそれを続けられると今度は激痛で声が変わる。そうなったら武官にそこを任せ、比玄様はその声をお聞きになりながら酒を飲む」
インフィンの顔からみるみると血の気が引いていく。
「これからお前はそれを味わうんだ」
ラフリンはインフィンの耳に囁いた。
「やだ……やだやだっ!」
首を横にふるインフィンを無視して、ラフリンは壺の蓋を開けた。壺は染色されたものと、されていないものがある。ラフリンが開けたのは染色されていない方だ。
壺に手を突っ込むと、手には粘度の高い蜜が付着し、ラフリンはそれを泣きじゃくるインフィンの口に突っ込んだ。
「ぐほっ」
「吐き出すな。これからお前を清潔にする」
蜜が甘味と分かると、インフィンは自発的にラフリンの手を舐めた。
「あ……」
インフィンの身体が、カタカタと震え出す。かと思えばくたりと脱力し、ラフリンの手がなければ仰向けに倒れそうになる。
「な、なんだよっ……」
インフィンの困惑した瞳が、ラフリンの頭巾を見上げた。ラフリンが別の壺を開けると、生き物がさわさわと動き回る音が部屋に響いた。
「な、何をする気だっ……!」
サーッと壺の中からソレが顔を出した。ピロピロと舌を出しながら、ソレはゆっくりと壺を出て、近づいてくる。
「へ、蛇っ……!」
インフィンが鈴のように叫んだ。
インフィンがぶるりと震える。
「どうした?」
ラフリンは意地悪く笑った。
「あ……あ……」
インフィンの脱力した脚の間から、水気の多い便が赤石に流れた。蛇は細長い体で赤石を這うと、インフィンの出したそれをチロチロと舐めて取った。
「これは粗蛇と言ってな、人間の便を好んで食う」
ラフリンは言いながら、排便を促進させる蜜を再びインフィンに食わせた。インフィンの口はラフリンの手を拒んだが、ラフリンは容赦無い。鼻をつまみ、耐え損ねた口に手を突っ込む。
「ごふっ……ふっ」
「ほら、出せ。この粗蛇は飢えている。お前が出さねば、自らお前の肛門に進入し、腸内を這い回るだろう」
ラフリンの言葉通り、粗蛇は便を求めてインフィンの肛門をツンと舌で突いた。
「ひぃっ」
インフィンはのけぞり、排便した。今度はほとんど水分で、それはラフリンの赤い羽織りも汚した。
「もうやだ……いや……」
インフィンは泣きながら、水気の多い便を出した。
「子供のように喚くな。いい歳の男が」
泣く者はいても、ここまで「いやだ」とぐずる者は見たことがなかった。拒否権などない。逃げ場もない。与えられた役割をこなし、解放を待つのみ。むしろ戦地へ行かなくて済むのだと開き直るものもいる。
「だって……だって僕はっ」
「お前、歳は」
粗蛇はまだ足りない様子で、インフィンの肛門に頭を突きつけた。ラフリンは侵入しようとする粗蛇を掴むと、床に叩いて殺した。
インフィンが小さく叫んだ。小ぶりな陰茎からちょろちょろと尿が溢れ、粗蛇の血を流す。
「あ……あ……」
「歳はと、聞いたんだが」
ラフリンが低く言うと、インフィンは小さく、
「に、じゅうさん」
と答えた。ラフリンは目を丸くした。二十三? 自分と同い年ではないか。
「ふん、その歳で子供のように喚いて、情けない男だ」
「うぅっ……」
ラフリンは立ち上がって、浴槽に張った湯をインフィンの頭にかけた。それから寝台に運んで、まだ男の侵入を知らない肛門を指で解した。
「やだっ……いやだあっ」
「これをしなければ中が裂けて苦しいぞ」
ラフリンの指は痛みに配慮していたが、インフィンにその気遣いは伝わらない。唯一自由のきく首をブンブンと横に振り、ラフリンを非難した。
「こ、この変態っ……お、お前っ……僕に触りたいだけだろ! なんでお前なんだよっ……あのデカブツの方がマシだ!」
ソピンのことを言っているらしい。ラフリンは笑った。
「本来はすべての工程を粗蛇にやらせる。ソピンはお前をこの部屋に運んでも、粗蛇を放つだけで何もしないぞ」
「そ、その方がマシだ!……お、お前は変態だ!」
ラフリンは自分の下半身が全く反応していないことを見せてやりたかった。
「本当にいいのか? 粗蛇は陰茎が届かないところまで侵入し、腸内にある全てを喰う。陰茎の侵入を遥かに超える不快感だ。一度侵入した粗蛇は自分では出られないから、最後は少しずつ引っ張り出すしかない。その過程で腸が破壊して死んだ者を何人も」
「う、うるさい!」
ラフリンは寝台を降りると、粗蛇の入った壺に向かった。
「や、やだ! 蛇はいやだ!」
みっともない声で泣くインフィンが不思議だった。この男には恥ずかしいとか、自負のような心はないのだろうか。
ラフリンは粗蛇を掴み上げ、インフィンに向けた。涙と、鼻水と唾液でぐしゃぐしゃになったインフィンの顔が、恐怖に歪む。ラフリンは堪えきれずに吹き出した。はつらつとした、若い男の笑い声が部屋に響く。
「安心しろっ……ははっ、粗蛇は使わないでやる」
ラフリンは掴んだ粗蛇を床に叩き殺した。インフィンがビクッと反応する。いちいち怯える男が面白い。
「お前は慰み役。お前を助ける者は、ここにはいない」
じっくりと肛門を解して、丁寧に体を拭いて絹織の着物を着せた。インフィンはすっかり落ち込み、比玄の部屋に行く頃には一言も発さなくなっていた。
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