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「ん、到着」
マンションの駐車場で、チュッ…と奈津菜のこめかみ辺りにキスをしてから車を降りた都志。続いて奈津菜が降りると、車のトランクから小さな花束を取り出した都志が
「一週間お疲れ、奈津菜」
とそれを渡す。
「ぇぇ…普通に仕事してただけで…」
「奈津菜が仕事してるんだ。それだけで尊いだろ?」
1時間前まで仕事を放り出し、バーチャル観光をしていた男とは思えない態度とセリフにコロッと騙された奈津菜は、照れ過ぎて涙目だ。
その奈津菜の手を引くように部屋へ戻った都志は
「ヒロ…まだいたのか?」
必死にパソコンとタブレットを操る富永寛也に冷たい視線を落とした。
「なっちゃん、おかえり」
「ただいま。お疲れさまです、ヒロさん」
「ホント疲れる…まだいたのかって…都志の…」
「わかった。手伝ってやる」
“優しいんだね”という妻の視線を受け止め、“お前の仕事だ”というヒロの視線を跳ね返しながら
「ごめんな、奈津菜。もう少しかかる」
と奈津菜の頭を撫でると
「一緒にご飯食べる?」
純粋な妻、奈津菜の視線が、タヌキ親父のような性格を隠せないイケメン夫に向けられた。いや…妻には隠せている…今のところ。
「ありがとう。なっちゃん、ご飯なに?」
ご飯なに?は俺のセリフだっ、と憤る夫、都志と対照的に、奈津菜が楽しそうに応えた。
「初挑戦だから…自信ない作です…あははっ…美味しくなかったらごめんね、都志」
都志はヒロでなく、自分を気遣う奈津菜を抱きしめる。
「挑戦する奈津菜が尊いだろ…だから、いつもずっと…これからも…俺は奈津菜を大切にする…永遠に愛する…俺の奈津菜」
彼女の耳元で囁く声は、ヒロには届かず…しかし高性能カメラはしっかりとキャッチした。
【完結】
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