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辞めさせていただきます
無理です…絶対に…
私、伍代奈津菜は、まだ14時だというのにパソコンの電源を落とすと、足の右横に手を伸ばす。一番下の深さのある引き出しを引っ張る腕には、鳥肌が立ち、それがところどころ赤くなってきた。
引き出しに入っている通勤バッグをガシッと掴んで膝の上に置くと、足が若干震えていることが分かる。
「そうね。こういうことって…またあるかはわからないけど、可能性があるならジャンケンか…」
「当番のように順番を決めておくか、ですね」
「みんなが嫌なことですから…仕方ないですね」
無理無理無理無理、絶対にムリムリ…
私は力を振り絞って立ち上がると、バッグを左手に、右手にはバッグに常備している封筒を持って上司の前まで行った。
「突然で申し訳ありませんが、本日で退職します。まだ14時なので昨日付けでも構いません。勝手な退職だと重々理解していますので、有給消化などは申し入れませんので、今ここで失礼します。短い間でしたがお世話になりました」
震える声ながら、こういう事態に備え幾度もシュミレーションしたセリフを言い切って頭を下げると、上司だけでなく部屋中の人が、ぽかんと私を見ていた。
「……伍代さん…汗スゴいけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないので辞めるんですっ」
「いきなり過ぎて、ちょっと理解が出来ないんだけど…理由はありそうね。聞かせて下さい」
口にするのも無理無理無理無理、また汗が流れ呼吸が浅い…でも、言わなくちゃ辞められない…一刻も早くここから出ないと…
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