辞めさせていただきます

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「伍代さんがうちに入ったのが去年の10月だと、今確認しました」 富永さんがPC画面を社長に向ける。 「10月…」 「はい……無事に終わったはずの夏が…まだ…9月に廊下でヤツがひっくり返ってました…それまでは転職なしで引っ越しだけしていたんですけど、一度大幅に生活エリアを変えようと考えてこちら方面へ…」 「商社勤務をされていたから、うちでも営業事務で海外とのやり取りをスムーズに行えているということですね」 きっと富永さんは、私の職歴書をPCで見ているんだろう。 「英語に不自由がないから海外移住なんて話も出るのか」 いえ、社長…それは夢のまた夢… 「スピーキングは得意ではないですけど、リーディングとライティングの方がマシという、典型的な日本人タイプです。また、何とか仕事は探せると思いますので…これで失礼します」 「ちょっと待ってください」 立ち上がろうとした私に、社長が“座れ”と指で示す。 「はい?」 「勤務方法を変えてみないか?」 「…おっしゃる意味が、よく分からないです…」 「まず今の担当をいきなり放置するような辞め方をされては困る」 「………すみません…でも…」 「あの部屋に今すぐ行けそうにない…だな?このあと全館で駆除の手配はする」 【シュネーズ】は自社ビルだと聞いている。ちなみにシュネーはドイツ語で雪だ。 1階は海外ブランドのフットウェアブランドに貸している。2、3階がEC運営階、4階が私もいた各部事務所階。5階は先代社長の頃は役員室が並んでいたそうだが、今は撮影スタジオになっており、スタジオの貸し出しもしている。そして6階が社長室などらしい。 先代社長は現在の会長。都志社長は自社ビルの使い方を変えただけでなく、海外との取引を倍増させ会社の大幅増収に成功した、やり手社長だと言われている。
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