再び…辞めさせていただきます

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社長と富永さんも、今日は在宅ワークだった。結果的に、担当業務は8割ほどここで出来そうだけど、私に仕事用のスマホを用意する必要があるというのが彼らの決定事項だった。 退勤時間になると、すぐキッチンへ行って夕食を作る。ここでこれくらいしないと…少しくらい快適空間のお礼になるように。 19時過ぎに富永さんが帰ると、味噌がまだ入っていない味噌汁を温めながら、一番最初に作っておいた、豚こまの揚げ焼き南蛮漬けをテーブルに置く。味噌を溶いているときに 「いい香りだな、奈津菜」 と…鍋を覗きたければ、横から、横からっ…後ろからは…それ、恋人たちの距離ですって。 「ぉぉお手すきですかっ?」 「こういうきれいな手が好き」 ……箸を持つ自分の手が、彼の大きな手に隠れているのを見て固まる。 「…しゃちょー……恋人ごっこ遊び…ですか?」 「まさか、そんな趣味はない。間違えたか?手伝えるよ」 わぉ…手伝えるよ、の“よ”の甘さよ…破壊力がすごいじゃないか… 「れぃ…冷蔵庫のトマト…」 「トマトな。これだよな?」 めちゃくちゃ不思議そうに見てますね。 「塩昆布とごま油で和えてるんですけど、食べてみてください」 「ん」 はっ?今?いまつまむの? 「あ、うまい…これうまい。酒を迷うな…とりあえずビールか」 「そうか…お味噌汁、あとがいいですか?」 「いや。味噌汁と米は一口。最初から並べる」 都志には、ビールを飲む時には米は一口というマイルールがあるらしい。
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