私が社長の妻です

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「最善の落としどころでしょうね、これが」 柿本部長がお茶のペットボトルを手に画面を見たまま言う。 「社長が会長と縁を切ろうが、会長が野垂れ死にすれば息子の社長が批判を受けてしまう。会長が最低限常識的な範囲で生活していないと、息子は社長なのに金を援助しないのか…となりかねない。社長はギリギリを計算して、あの母娘を会長と切り離した…都志くんの親孝行と言えるでしょう」 「都志は、おじいちゃんをうまく受け継いでますね」 「そうですね。隔世遺伝か…」 「雪子さんが聞いたら怒られますよ?」 と話す私たちに向かって 「おーい、なっちゃーん。お疲れ様〜」 と雪子さんが手を振りながらカメラに向かって歩いてきた。すぐマイクをオンにして画面の向こうに向かって話す。 「雪子さん…あ、ちょっと下がって…そんなに近いと顔が見えないって…」 「都志、カメラどっちも見えるようにしてよ」 「もう切る、忙しいんだ。次は奈津菜の部屋で結婚報告。奈津菜、面談が終わったことにしてすぐに戻れ。時間、限界だろ?」 「あ、うん…そうだね」 「少ししたら、柿本部長と行くから」 「うん、分かった。おじいちゃん、雪子さん、ちょっと急いでデスクに戻るから、またね」 「はいはい、頑張っていらっしゃい」 「なづちゃん、またゆっくり来て。今日の報告以降、困ったことは都志と柿本くんに言うんだよ?」 「じいちゃん、俺もいるからっ」 「ああ、寛也もな」 富永さん…おじいちゃんに頭撫でられてるよ… 私は急いで自分のデスクに戻る。枝野さんが 「問題ない?」 と短く聞いてくれたので 「はい、大丈夫です。時間かかってスミマセン」 とだけ伝えて業務を再開する。 「あ、松井さん…出張決まったんですね。了解です」 「そうなの。あっちの休暇明けを狙って行くわ」 「あっちからの指示も下さいね。出来るだけの対応はするんで」 それから20分ほどしてから、社長と富永さん、柿本部長がやって来た。コレ…緊張するな…
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