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役員会にあの母娘が来ることは皆の予想通りだった。だって、すっかり婚約発表の日だと思っているようだったから。
でも完全に部外者なのだから、当然席の用意はない。
でもでもでもでも…そのひとつだけ用意された席も使われることなく、遅れて来た時点で会長解任が言い渡された…おそらくエキセントリックな装いに時間がかかったのでしょう…不快な格好だわ。
私は少し離れていたからマシだったけれど、それでも部屋中が臭っていたわよね…香水二人分と樟脳がまじり合った上に、盛ったヘアを支えるたっぷりのヘアスプレーのニオイ。
もしかしたら、柿本部長くらいの距離にいれば、メイクのニオイもしたかもしれないわね…それに汗?嫌だわ…想像するだけで酷い悪臭…
もうね、着物の柄の趣味の悪さも言いたいんですけどね…これは好みの問題だと言われると、私が口うるさいオバサンになるので言わないでおきます。
父が
「縁は切ったと言っても、孝志くんを都志の父だと見る人も周りにはいるだろう。くれぐれも都志やなづちゃんの迷惑にならんように頼みます」
と言った時に、ああ…私には真似の出来ない言葉だ…と父に頭が下がりました。切ったと言っても…そうよね…今後関わることがなくたって、見られる目はある。
そして、我が子も私をぐんと追い抜いて成長していた。
「山口さん親子は来社された帰りに帰宅される以外の目的でタクシーを使われていました。これまで会長からの経費請求で有耶無耶になっていた部分がありましたが、今年度、まだ未決算分は山口さん親子へ返金を求めることになっています」
シュネーズ社長としての言葉は“山口さん”とちゃんと言えるのは大人だわ、都志。
「じいちゃんじゃないけど、おせっかいで言うと…会長はこの請求に手出ししない方がいい。彼女らに支払わせるべき金です。彼女らが払えないと言うなら、弁護士が差し押さえに動くだけ」
「会長、俺が言うのも…でも、あなたの息子の最後の優しさですよ。まだ結婚されてないなら、会長は持つ必要ない負債です」
これも私の父が息子と甥に乗り移ったような気持ちで私は聞いていました。
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