雪子です!【SS①】

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「なっちゃん…どんな顔してそんなこと調べてるのかなぁ…って思っちゃうわね」 「どんな顔…って…いつもこんな顔ですけど…」 そう言う真顔の彼女は可愛い美人さんだ。 「ちょっとあちこち痒くなりながら調べてます…痒いくらい我慢して調べないと…イチイチ虫が飛んでるからとキャーキャー言っていられないことももう学んだ大人なんで」 「生きづらいわね…」 「この季節は…はい…でも、今のマンションに住むようになってずいぶんと楽になりました」 「都志と結婚して一番良かったことは、あのタワマン?」 あら…これだからなっちゃんは可愛いのよ。一人で照れてるんだもの。 「いい、いい。好きだとか、そんなの姑に言わなくてもその顔で十分」 あら…さらに照れてるわ。 「じゃあ…よいしょっと…なっちゃん、この中で着てみたいものがあったら選んでくれる?」 「ぇぇ…すごっ…全部浴衣?」 「えっとね、ここまで…こっちに置くのが湯上がり浴衣。旅館で着るようなものね。残りは浴衣…綿紅梅、綿絽、綿縮、麻縮、綿絞り…とか…我ながらよく買い溜めたわ」 「お店みたい…」 「好きなものはどうしてもね。ふふっ…なかなかの品揃えよね。紅梅も絽も縮も絞りも、全部着物の技法だけれど、これを絹ではなく綿や麻で織ったものが浴衣なのよ。なっちゃんが着てみたいものだけ、お直しするわ」 都志がいくらでも新しく買うでしょうけど、こういう物は譲り受けて一度着てくれるだけで嬉しいのよ。 「私、全く着物も浴衣も知らないし、きっと良いものなんだろうって思ってもそれ以上…名前とか違いが分からないんですけど…」 「いい、いい。一度着てみようかなっていう柄で選んでくれたらいいわ」 「本当に?」 「本当に」 「それなら…これは着てみたいです」 彼女が選んだのは、彼女が選ばなくても私が絶対にすすめようと思っていた、儚く可憐な朝顔柄の有松絞りの浴衣だった。
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