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「なっちゃん…どんな顔してそんなこと調べてるのかなぁ…って思っちゃうわね」
「どんな顔…って…いつもこんな顔ですけど…」
そう言う真顔の彼女は可愛い美人さんだ。
「ちょっとあちこち痒くなりながら調べてます…痒いくらい我慢して調べないと…イチイチ虫が飛んでるからとキャーキャー言っていられないことももう学んだ大人なんで」
「生きづらいわね…」
「この季節は…はい…でも、今のマンションに住むようになってずいぶんと楽になりました」
「都志と結婚して一番良かったことは、あのタワマン?」
あら…これだからなっちゃんは可愛いのよ。一人で照れてるんだもの。
「いい、いい。好きだとか、そんなの姑に言わなくてもその顔で十分」
あら…さらに照れてるわ。
「じゃあ…よいしょっと…なっちゃん、この中で着てみたいものがあったら選んでくれる?」
「ぇぇ…すごっ…全部浴衣?」
「えっとね、ここまで…こっちに置くのが湯上がり浴衣。旅館で着るようなものね。残りは浴衣…綿紅梅、綿絽、綿縮、麻縮、綿絞り…とか…我ながらよく買い溜めたわ」
「お店みたい…」
「好きなものはどうしてもね。ふふっ…なかなかの品揃えよね。紅梅も絽も縮も絞りも、全部着物の技法だけれど、これを絹ではなく綿や麻で織ったものが浴衣なのよ。なっちゃんが着てみたいものだけ、お直しするわ」
都志がいくらでも新しく買うでしょうけど、こういう物は譲り受けて一度着てくれるだけで嬉しいのよ。
「私、全く着物も浴衣も知らないし、きっと良いものなんだろうって思ってもそれ以上…名前とか違いが分からないんですけど…」
「いい、いい。一度着てみようかなっていう柄で選んでくれたらいいわ」
「本当に?」
「本当に」
「それなら…これは着てみたいです」
彼女が選んだのは、彼女が選ばなくても私が絶対にすすめようと思っていた、儚く可憐な朝顔柄の有松絞りの浴衣だった。
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