1/3
前へ
/49ページ
次へ

 翌週の水曜日、俺は放課後一人で部室にいた。  このあと他の部員が来るのかと聞かれたら、俺はキッパリ「来ない」と言う。俺の通う私立猫が丘(ねこがおか)高等学校の軽音部は、まったくと言っていいほど人気がなく、幽霊部員の山田さんと今野君、残りの先輩二人を合わせて、五人しかいないからだ(ちなみに先輩二人については名前も顔も知らない)。  部員が集まらなかった理由はたった一つ。  音楽好きの新入生は必ずと言っていいほど、に魅了されるからだ。体育館で開催された新入生歓迎のド派手なコンサートは、今でも忘れられない。  わが校は吹奏楽部強豪校として全国各地で有名で、音楽好きの新入生はソレに入部することを目的に入学するのだ。  そのせいで軽音楽部は見向きもされない。  先生方からの関心も非常に薄く、俺は防音設備の一切整っていない空き教室で練習していた。  音楽が好きなら君も吹奏楽部に入部したらいいんじゃないか、と担任の先生から言われたこともある。でも、嫌だと答えた。  俺が好きな音楽はクラシックではない。バッハやモーツァルト、メンデルスゾーンなぞには興味はなく、ロックやポップスが好きなのだと説明した。  その返事を聞くと、先生は白けたようで、その日から俺に話しかけてくることはなかった。    
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加