1-1. こぼれ話⓵

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1-1. こぼれ話⓵

 二人であたりめをムシャムシャと食べていると、俺ははっちに聞きたかったことを思い出した。 「なぁ、はっち」   なんだい? とはっちは顔を上げた。 「君はもう猫又だからあまり関係ないのかもしれけれど、あたりめって食べても身体に支障はないのか?」 猫にイカを食べさせてはいけないというネットニュースを見たことがあるので、俺は尋ねた。 「……猫又になってから、食べられるものの幅がグーンと広がったんだ」 だから食べても健康上問題ないよ、とはっちは答えた。 「そうなのか。……ちなみに猫又になって最初に食べたものは何なんだ?」 「……」  はっちは答えない。あたりめをモソモソと食べ続けている。  しばらくの間、沈黙が訪れた。  そのとき俺は昔爺ちゃんに聞いた猫又の話を再度思い出した。猫又は、人を喰う。こんなに答えづらそうにしているということは、まさかはっちも……。  その考えに至った瞬間、はっちは口を開いた。それに気づいた俺は、慌てて言った。 「いや、無理に答えなくていいぜ! 悪いこと聞いたな」  くっちゃくっちゃと死肉を喰らう猫又の姿を想像し、俺はかなりゾッとした。はっちの口からそういったことは聞きたくない。その一方ではっちは俺の言葉を聞いていなかったのか、唐突にこう答えた。 「——アメリカ産の不思議な色をした、キャンディだよ」 「へ?」 思考回路がショートした。 「とてもじゃないけど、口に合わなくて……。あの味は本当にトラウマだ。思い出すだけで吐いちゃいそうだ」  はっちはそう言った後におえっとしたのに、最後に一つだけ残ったあたりめを、なぜか素早く手に取った。どうやらあたりめを譲りたくないらしい。 「そっそうなのか。大変だったんだな」 予想外の返答に面食らうも、正直言って安心した。 そうして、もう一つ聞きたかったことを思い出した。 「そういや、はっちは男の子なの? 女の子なの?」 まぁどちらでも構わないけどさ。俺はそう続けた。 「僕は、男の子さ」 はっちはぷぅと鳴いた。 《こぼれ話⓵ -完-》
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