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▲  はっちのコンサートが終わると、俺は手がちぎれるんじゃないかってくらい大きな拍手をした。 「はっち、やっぱりすごいぜ! 俺、感動した!」 「あんまり褒めないでよ、照れるなぁ」  はっちはギターを床に置いて、毛づくろいを始めた。あれだけ弾くと、やっぱり毛の流れが乱れるのだろう。  俺はコンサートのお礼に、あたりめをもう一パックまるまる上げようと思った。鞄に手を伸ばしたとき、左手に突然ズキズキとした痛みが走った。 「いってえ」  思わず左手を押さえた。指の先からの血が滲んでいる。 「いったいどうして……」  俺は唖然とした。 「どうしたんだい、蓮」 はっちはいつの間にか俺の傍に来て、手元をのぞき込んでいた。 「あちゃー。弦で指を切っちゃったか」 はっちは続けた。 「蓮さ、君のギターは弦を交換してどれくらい経つんだい?」 「弦交換? 俺は買ったときの状態でそのまま使ってるぜ?」 「……ギターを買ったのはいつだい?」 「三ヶ月くらい前かな……」 「それから毎日弾いてるんだよね?」 「もちろんさ!」  俺はどんなもんだい! と胸を張った。練習時間だけは、あの吹奏楽部にも負けないぜ。一方ではっちは額に手を当てて、ため息をついた。 「蓮、ギターを見せてくれ」 「おぉ? 分かった」  はっちは俺からギターを奪い取ると、弦を観察し始めた。そして、うぅぅと唸るとこう言った。 「ギターの弦が錆び切ってるじゃないか!」 さっき教えたときに気づけばよかった……。とはっちは頭を抱えた。 「こんな状態でギターを弾いたら手を痛めるのは当然だよ。他に弦は持ってないのかい?」 「無いな」 「即答かよぅ。分かった。今週末、楽器屋さんに行こう」 はっちは俺のギターをじっと見つめて更に続けた。 「新しい弦に交換しよう。それと観察してみて思ったんだけれど、このギターは少し手直しをしてもらう必要があるかもしれない」 弦を交換するまでギターの練習は控えるように、とはっちは厳しい声で告げた。
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