3-1. こぼれ話②

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3-1. こぼれ話②

 はっちの初回レッスン後、俺は約束した通りギターの練習をしなかった。弦交換をするまで部室に用がないので、午後の授業とホームルームが終わるとすぐに教室を出る。学校から解放されると、厳しい日差しがジリジリと迫ってきた。 「暑すぎる……」  少し前に、SNSで年号の擬人化が話題になっていた。その中で、この暑さはいわゆる「令和ちゃん」がまだ幼くて、気温設定を間違えちゃったからだよね、とか言っているユーザーがいた。もしその妄想が本当なら、今すぐに誰でもいいから「令和ちゃん」に正しい気温調整の仕方を教えてあげてほしい。はっちが俺にギターを教えてくれているように。  そんなことを一人妄想しながらフラリフラリと歩いていると、この前俺を助けてくれなかった警察官のおっちゃんと出会った。  炎天下の中だったけれども、俺は一応挨拶をした。 「…………こんにちは」 「やぁ、今日はあまり元気がないね。何かあったのかい?」 「……特に何もないです。でも、ひょっとしたら夏バテかもしれません」 「夏バテだって!? そりゃあ、大変だ。水分補給はちゃんとしないとダメだよ」 おっちゃんは、ほら、といいながら近くの自販機を指さした。
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