3-1. こぼれ話②

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「そこの自販機で飲みたいものを選びなさいな。おじさんが買ってあげるから」 「え、いいんですか?」 「遠慮しないでくれよ。蓮くん、汗だらだらで顔が真っ赤だよ。このまま歩かれたら、心配だ」 「……じゃあ遠慮なく」  ありがとうございます、俺はおっちゃんから百五十円受け取ると、自販機で麦茶を買った。おつりはない。ピッタリだ。俺は暑さに耐えきれず、その場で麦茶をゴクゴク飲んだ。すると、知らない間におっちゃんがそばに来ていた。 「蓮くん、髪を伸ばしたんだね」 「ああ、そうなんです。柔道やめたので」 「なんだって!? どうしてやめちゃったんだい。強かったのに、もったいない……」 「……他にやりたいことを見つけたんです」 「ほう……。やりたいことって?」  おっちゃんは首を傾げた。たしかにおっちゃんからしたら、とても不思議なことなのだろう。俺は中学時代、柔道部だった。今は大分身体が鈍ってしまったが、現役時代はそこそこ強かった。なので部活の帰り道に、柔道がとても楽しいことや先輩に勝ったことなどをおっちゃんによく語っていたのだ。そしてその度におっちゃんはその話をよく聞いてくれた。だからこそ、「市村 蓮は柔道愛好家だ」という印象が強かったに違いない。  俺は小さな声で言った。 「ギターを上手く弾けるようになって、軽音部を人気にしたいんです」  おっちゃんは大きな声ではぁ? と言った。まるで訳が分からないといった様子だった。その反応を見て、俺の心臓は急に飛び跳ねた。ドクンドクンと心音がうるさい。そこにうだるような暑さも相まって、吐きそうになる。
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