3-2. こぼれ話③

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「誤解だよ、お兄ぃ!」  花音が大きな声で言った。 「え? 誤解って、どういうことだ?」 「私はお兄ぃの弾くギターの音は嫌いじゃないよ。だって殆ど音になってないから、全くうるさくないもん」 「……これは、ひょっとしてディスられてる?」  妹は再び俺の言葉を聞き流し、続けた。 「そんなことよりも、お兄ぃは最近話をあんまり聞いてくれなくなったし、お出かけにも一緒に来てくれないし……。私、お兄ぃがいないと」  つまらない……。そう言って口を尖らした。 「お前がここ三か月ほど不機嫌だった理由って、それか?」 「当たり前じゃん! 他に何があるの……?」  ……そっちかい! 俺は見事にずっこけた。 「あのねお兄ぃ。買い物するとき、お兄ぃがいないと凄く大変なんだよ」  妹は三か月分の怒りを発散しているのか、顔を真っ赤にしている。 「分かった。なるべくお前の話は聞くようにするし、買い出しも手伝うよ」 ——約束な。 俺は妹の目を見た。 「分かれば良いのです」 そう言った花音は、とても満足そうだ。 そして、あることについて尋ねてきた。 「ギターの先生は、学校の先生なの?」 「いや違う」 「じゃあ、外部のコーチ?」 「うん」 「どんな人なの?」 花音の声は弾んでいる。 「うーんと……。毛深いかな」 「うへぇ。なんだかばっちいな。それと?」 「目が金色だな」 「え、外国の人なの!? だから毛深いのかな……?」 「あとはしっぽが生えてる」 「しっぽ!?」 妹は素っ頓狂な声をあげた。 「……ホモ・サピエンスじゃないの?」 「ちがう」 「……じゃあ、何?」 そう言った妹の声は微かに震えていた。 「猫又」 それを耳にすると、妹は冷静かつ瞬時に告げた。 「お兄ぃ、病院行こう」 「大丈夫だ、問題ない」 「どこがやねん」 「今度写真撮ってきてやるよ」 「マジでか」 「、だけどな」 そう言って俺は再び玉ねぎに視線を移した。 《こぼれ話③ -完-》
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