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 そこで俺は、ようやくはっちのことを思い出して振り返った。  しかしそこにいたのは彼ではなく、エプロンを身につけた背の高い金髪の男性だった。 「こんにちは。スタッフの井口(いぐち)です」  何かお探しですか? と彼は言った。 「あ、いや。あの、えっと」  突然話しかけられ、どもってしまった。 普段は知らない人と話すのは平気なタイプだが、集中して商品を見ていたため驚いてしまった。 「えっと、エフェクターって何ですか?」  俺はさきほど井口さんが言っていたことが気になって尋ねた。 「エフェクターは、エレキギターにつないで音を変える機械よ。ほら、ここにケーブルを指す穴があるでしょう?」 「あ、本当だ」 「だから君のギターには使わないかな。その背負っているの、エレキじゃなくてアコギよね?」 「っはい!」  突然オネエ言葉で話す井口さんに圧倒されてしまった。そういう口調で話す人はテレビや動画でしか見たことがなかったし、何よりそんな機械がこの世にあるなんて知らなかったのだ……。  会話の続きが思いつかず口をパクパクさせていると、井口さんはそんな俺を見て爆笑した。 「アハハハ! そんなに緊張しなくて大丈夫よ」 「緊張してるつもりはないんですけど……」 「いや、だってもうなんか知らないけど、表情めちゃくちゃ固いもん。安心して、ここには楽器初心者の人、たくさんいらっしゃるから」    ビギナーということが何故かバレてしまったことに、俺は驚いた。雰囲気とかで、分かるんだろうか……。  名前は何ていうの? と聞く井口さんは、未だ笑いが収まらないのか唇の端が不自然に上がっている。 「市村です」  名前まで言おうか悩んだが、やめた。 「そうか、市村くんね」  ようやく笑いが収まったのか、井口さんの声の震えが収まった。 「で。今日は何を買いに来たの?」 「ギターの弦を買いに来ました」  猫又と一緒に選ぶ予定、とは流石に言えなかった。返事を聞くと、井口さんはそれならこっちだと売り場を案内してくれた。 「この上にあるのがギターの弦よ。下の大きいパッケージのはエレキベースの弦だから間違えないようにね」    
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