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 八助は、俺が選んだ弦を見るなりなぜかこう言った。 「はもう少しテンションのゆるい弦を使った方がいいよ」 「え?」  俺は耳を疑った。 ——八助、今を言ったよな?  井口さんが俺のこと話したのかな? そう考えて井口さんの方を見ると、彼もまた驚いた顔をしている。 「やだ、二人とも知り合いだったの」 「そうだよ」  八助がさらりと答えた。 「」 「あー、そういうことあるわよねぇ。私もたまにやっちゃうワ」  うんうんと相槌を打ち、井口さんはケラケラと笑う。 「なぁ、そうだろう?」  八助は前髪を耳にかけ、俺の目を見つめた。 ——その瞳は、金色だった。  呆然とする俺を見て、何やら彼は楽しんでいるように見えた。 「そうだ、蓮のギターなんだけど、少し修理を頼みたいんだ」 「いいわよ。どこを直すの?」 「弦高。初心者には高すぎるから調整して欲しいんだ」 「オッケー」 「料金は、僕が払う」 「要らないわよ、私がやるんだから。その代わり、今度のライヴのチケット、二枚頂戴ね」 「それでいいのかい? どうもありがとう」 「それと市村くんの弦、Extra Light(テンションのゆるい弦)の方にしちゃっていいかしら?」 「そこまでしてくれるのかい?」 「当然よ、チケット二枚分だもの」 「何から何まで悪いね、今度あげるよ」 「いらないわよ」  なんだかこの口調、どこかで聞いたことがある。 「さぁ蓮くん、ギターを貸してくれない?」 「わ、分かりました」  俺は驚きで会話の内容が殆ど頭に入ってこなかった。  でも、俺はある事実に気づいてしまった。いや、。よく考えれば、最初から予測できたことじゃないか。  井口さんがギターを持って作業スペースに行ってしまうと、俺は八助に尋ねた。 「……はっち?」 「……なんだい?」 「本当にはっちなのか?」 「そうだよ」  そう答えたはっちは、フフンと笑った。
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