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 ギターを修理する間、はっちは店内を見てくると行ってしまった。一方俺はレジの近くでギターの修理が終わるのを待った。  十分くらいで井口さんは戻ってきた。  ギターを見せてもらう。弦高調整のほかに弦も張り替えてくれた。至れり尽くせりというやつだ。  さすがに申し訳なくなった俺は「お金を払う」というと、井口さんはこう答えた。 「いらないわよ」 「えぇ……」 「八助に頼まれたことだし……。それに、下手な修理してアイツ怒らせると後々面倒なの」 「でも……」 「そんなにお金を払いたの? 真面目というか、損な子ねェ……」  井口さんは感慨深そうな様子で、「じゃあこうしましょう」と言った。 「市村くんの初ライブチケット、私にタダでちょうだい」 「そんなんでいいんですか」  俺は驚いたのと同時に、少し焦った。軽音楽部は、俺を除いて全員幽霊部員だからだ。 「いいわよ」 「わ、分かりました。一番良い席をご用意します」 「言うじゃない! 楽しみにしているわ」    
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