4

1/3
前へ
/107ページ
次へ

4

 俺はポケットを探った。  無い無い無い!  俺の不自然な動きを見て、弘が小声で話しかけてきた。 「どうした、蓮?」  トラブルか? 弘は心配そうに俺を見た。 「ピックがないんだ。落としたかもしれない」 「私、ステージ袖を見てくるわ!」  聞き耳を立てていた優さんが、小走りで向かった。  そして黒い暗幕の隙間からひょっこりと顔を出すと、手で小さくバッテンを作った。 「おう、マジか」  弘が呟く。 「蓮、何か代わりになるもの、持ってるか?」  例えば、一円玉とか……。  ナイスな提案をしてくれたのだが、俺はキャッシュレスで買い物をするので、小銭を持っていなかった。  始まらない演奏に、会場がざわめき始める。  二人とも、ごめん。  そう謝ろうとしたときだった。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加