第1章 保護されて、結婚

10/16

114人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 唇の端を上げた男性が、そう問いかけてくる。  エルーシアは少し迷う。視線を下げて、床を見つめた。 「まぁ、いつまでも逃げることなど、出来ないだろうがな。どう足掻いても、いつかは知るべきことだ」  男性が抑揚のない声でそう言う。エルーシアは視線を上げられなかった。 「見たところ、ろくな扱いを受けていなかったんだろう。だから、おいて行かれたんだ」  ……おいて行かれた。  その言葉から連想するに。エルーシアは、大体のことを予想出来てしまった。唇を噛んで、溢れ出そうになる感情をこらえる。 「……私は、その」 「あぁ」 「あのおうちの、お荷物ですから。……だから、その。家族としても、認識されていなくて」  口が勝手に動いて、言葉を零していく。行き場のない視線が彷徨って、男性に向けられた。彼はその美しい顔に表情を映していなかった。 「そうか。だが、それは俺にとってはどうでもいいことだ。……生憎、お前がどうなろうが知らない」 「……そ、う、ですよね」  そうだ。この男性にとって。エルーシアはどうでもいい存在なのだ。エルーシアがその場で野垂れ死のうが、関係ないのだ。 「まぁ、保護した以上は、責任をもってしばらくは面倒を見てやる」 「ほ、ご、ですか?」  けれど。聞きなれない単語に、エルーシアは目をぱちぱちと瞬かせた。その姿を見て、男性は眉間にしわを寄せていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加