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そういう意味を込めて震える声でそう問いかければ、男性はもう一度椅子にドカッと腰を下ろす。
「別に俺の名前など、どうでもいいだろう」
「い、いえ、その。恩人のお名前くらい、存じておきたく……」
あのとき、エルーシアを助けたのは間違いなくこの男性だ。声とか、『隊長』と呼ばれていることとか。それを踏まえれば、エルーシアをあの場から救ってくれたのは彼なのだ。
そこまで、一々言うつもりはないのだが。
「俺は恩人でもなんでもない。ただ、そうだな。アドネ、それが俺の名前だ」
「……アドネさま」
「もういいだろう。後の事情聴取はカタリーネが担当する。それと、なにかがあればこいつに言え。同性のほうが話しやすいだろう」
アドネはそれだけを口早に告げて、さっさと部屋を出て行ってしまった。
残されたのはエルーシアと何処か怒ったような様子のカタリーネだけだ。
しかし、カタリーネはしばらくしてハッとすると、エルーシアに「申し訳ございません」と謝罪をしてくる。
「……なにが?」
「隊長、ぶっきらぼうなんです。なんていうか、人嫌いと言いますか……」
どうやら、カタリーネはアドネの態度について、謝罪しているらしい。別にエルーシアからすればどうでもいいことなのだが。
(アドネさまに私をバカにするような意図は見えなかったわ。……ただ、そう。呆れている)
多分ではあるが、彼はエルーシアに対して呆れているのだ。のんきにお願いと言ったこと。名前を尋ねたこと。そういうことに対して。
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